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デナトニウムの放課後

今でも僕は、本棚に佇むある一冊の本を眺めて顔を顰める。 顔を顰めた後、ため息をつきながら、 その本を開くのだ。 △▽△ 「おはよう」 最近、登校の道でよくこいつに声をかけられる。 篠田凛子。 顔を覗き込むようにして挨拶してくるので、僕は毎度少し驚いて立ち止まる。...

週末の宙返り

毎週金曜の夕方になると、自然と向かう場所がある。 その一。スーパーで使わなくなったダンボールをもらう。 ここに並んでる缶づめを買った時もあったけど、全然見向きもされなかった。 まるで媚を売ってほしかったみたいで恥ずかしくなった。 その二。読みかけの本を用意する。...

この星より少しだけ

昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた。 教師は教材をとんとん、と机の上でそろえて教室からいなくなる。 教室のみんなは伸びをしたり、購買に走ったり、友達と談笑したり。 それぞれに動き出す中、私は携帯を手に屋上へ向かう。 生徒手帳に挟んであるメモを丁寧に伸ばし...

雨と肺

ビルの外階段の踊り場。 我が社の愛煙家にとって、つかの間の楽園である。 煙を吐きながら、体の力が抜けていくのを感じた。 命が縮まろうがどうでもいい。 この煙で肺を満たして、今、この瞬間が満たされていればいい。 そのままなんとなく、向かいのビルの屋上に視線を投げる。 「あ?」...

彼方に行った君へ

桜の盛りを過ぎたころだった。 「僕は行くよ」 君は僕だけにそう告げて、いなくなった。 学校では生徒会長という立場だった君がいなくなって、しばらくは生徒会のメンバーが忙しそうにミーティングを重ねていた。 家族が教師と話しているのを見たが、現実を受けとめられず戸惑っているように...

明け待ち海と寒がりな僕ら

雪が海にも積もるようになって、何年経つだろう。 原因はわからない。 溶けない雪はただ降り積り、氷河のように大海を彷徨う。 天気予報では、それまではなかった水位に加え、雪位も表示されるようになった。 「あのさ」 君は僕の隣にたたずみ、雪の漂う海を見つめながら言った。...

小説: Blog2
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