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明け待ち海と寒がりな僕ら

  • 執筆者の写真: みうらさここ
    みうらさここ
  • 2022年5月1日
  • 読了時間: 2分

更新日:2023年9月11日

雪が海にも積もるようになって、何年経つだろう。

原因はわからない。

溶けない雪はただ降り積り、氷河のように大海を彷徨う。

天気予報では、それまではなかった水位に加え、雪位も表示されるようになった。

「あのさ」

君は僕の隣にたたずみ、雪の漂う海を見つめながら言った。

「本当にわからないの?」

「何が」

僕は、分厚いコートの前を握りしめて言った。

夜明け前だ。気温はまだ低い。

「こうなった原因だよ」

「わからない。原因は専門家にも分かっていないって言っていたじゃないか」

ちらり、君は僕を横目で見て言葉を紡ぐ。

「じゃあ、君はいつからそんなに分厚いコートを着るようになったんだい?」

海に雪が積もるようになってから、気温が低くなった。

それで、みんな着こむようになって。

「逆だよ、逆」

君は、僕たちと同じように海を眺める人達を指差した。

「君たちが、コートを着込むから雪が海に積もるようになったんだ」

え?

でも、だって、誰だって寒いのは嫌だろう。

「そもそも雪が海に積もるようになってから気温が下がっていると言っているのは誰なんだい」

「せ...専門家がちゃんと研究して」

「嘘だ」

君は首を振りながら、遠くを見つめる。

どこを見ているのか、誰にも掴めないような瞳だった。

「本当に気温が下がっているなら、なんで僕はTシャツ一枚で大丈夫なんだ?」

「そ、それは君が暑がりだから」

「本当に?」

本当に、そう思う?

僕はだんだん、頭が正しく思考していくのを感じていた。

足元の地面がぐらぐらと揺れているような気さえしてきたが、それは不快ではなかった。

「じゃあ」

僕は、分厚いコートの襟を握りしめた。

「僕が、僕たちがこの分厚いコートを脱いだら」

「世界は変わる」

僕は、震える手でコートのボタンをひとつずつ外していった。

ばさり、足元にコートが落ちる。

「ほら」

君は、海に照らされた真っ青な海を指差してにこりと笑って言った。

「綺麗だろ」


◇◇◇


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ

僕は、目覚まし時計のアラームをそっと止めた。

なんだか、気持ちがすっきりとした朝だった。





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