ひきたてなだの大捕物 第四幕
- 2022年4月30日
- 読了時間: 2分
更新日:2023年9月11日
◇染み移し
私が用意したものは3つ。
ばっちゃんの知り合いからもらったお札2枚。
一枚は厄除けのお札。
一枚は破魔のお札。
あとは、ポテチを少し。
「では!始めます」
「待った待った、少しぐらい流れを説明してくれ」
『そ、そうよ!これで何かあったら困るじゃない』
『…困る』
『だなぁ』
こほん、と咳払いを一つ。
「どうも黒いもやですけど、那駄さんの体に混ざっているみたいなんです」
「混ざっている?」
「少し染み込んでいる感じ、ですね。見た感じ。
なので、まずはその染みを含めて引き剥がします。そのあと、私の体に入れて破魔の札を貼って魔を祓います」
「なるほどな。じゃあ、ポテチはなんで」
「那駄さんに異変がないか調べるためです。
全て終わったあと食べてもらって、
ポテチに対する愛情が何も以前と変わらないようだったら、それはもう成功ということに」
「まてまてまてまて」
那駄さんが私の肩をたたく。
「というのはさすがに冗談で。
しばらく私と一緒にいてもらって、もやがなくなった以外にお変わりないことを確認します」
そのための、ポテチ。
頑張った後のご褒美。
『おいらも食べたいなぁ』
「智伊吉さんは今回は頑張らないからまた今度」
じゃ、とぽんと札を貼る。
「ちょっ…待て待て待て軽すぎだろもうちょっと心の準備を…!!?」
黒いもやがぱぁっと、あたりに薄く広がる。
霧のようになったそれを、口から大きく吸い込む。
「なんだか肩が軽くなったな…?おい、大丈夫か」
「今のところは!」
よし、あとは最後までこれを吸い込んで…
2枚目のお札!
タァンッと音を立てて、黒いもやが弾ける。
『うわっなんか、バチバチ聞こえるわよ!』
『…うるさい』
『なんだこれぇ?』
あやかし界にもラップ音はあるんだなぁ、と思いつつ天に戻って行くもやを見送る。
「さようならー」
これで無事、那駄さんも人間界に入れるように…
なるはずだった。
ひゅんっと、天に向かう大きい流れに逆らって小さい塊が戻ってくる。
「!!?」
それはみるみるうちにこちらに近づき。
私の胸に収まったのだった。
◇小さな嘘
この事態を把握しているのは私一人。
このまま私が4人に何も伝えなければ、染み移し大作戦は大成功となる。
那駄さんは肩が軽くなったと喜んでいる。
桃色のもやと青いもやが那駄さんの体を点検するように近づく。
灰色のもやが嬉しそうに走り回る。
『これで、大丈夫なの?』
夜夜子さんの少し上向いた声が響く。
「はい!」
これでよかった。
これでよかったんだ。
そう心に言い聞かせながら、私は3人に別れを告げ、廃寺を後にした。



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