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ひきたてなだの大捕物 第三幕

  • 執筆者の写真: みうらさここ
    みうらさここ
  • 2022年4月30日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年9月11日

◇汚れの取り方


最近道を歩いてるとちっちゃいもやが見えるし、

人についてる小さいもやも見えるし、

なんなら家の中でももやが見えるし、

なんか動いてるし…

「どうしよう…」

「あらあら、大変ねぇ」

ばっちゃんは何も聞かずにお菓子と、熱いお茶をかこん、と私の前に置いた。

お茶をふぅふぅ冷まして、少しだけ飲む。

絶妙なあたたかさ。さすがばっちゃん。

「ばっちゃん、汚れはどうやったら落とせると思う?」

「そうだねぇ、お洗濯して取れるといいけれど。

漂白剤使うとねぇ、元の色も落ちちゃうから」

お祓いしたら半分人じゃない那駄さんはたぶん今のままの那駄さんじゃなくなっちゃうし…

でもこのままだと那駄さんは人と会えないし私は一生もやに囲まれた生活を送ることに…

うーん…

「あっ」

考えこんでいたら、お茶を白いTシャツにこぼしてしまった。

「あらあら」

ばっちゃんが白い布でぽんぽんと叩いてくれる。

ついた汚れを…

ぽんぽん叩くと…

叩いている布の方に移っていく汚れ…

これだ!

「ばあちゃん、ありがとう!」

わたしは家の鍵を握りしめてドアに向かった。

背中から、

「気ぃつけなさいよぅ」

とあたたかい声が聞こえた。


◇新たな可能性

「今、なんて言った」

那駄さんが珍しく眉をひそめている。

でも、ここは譲るわけにはいかない。

「私に、そのもやをうつします。

その次に、私を清めます。

そうしたら、黒いもやはなくなります」

人間の私なら、お清めされても大丈夫なはず。

『な、なんでそこまで那駄のこと…やっぱりこの女!』

近づいてきた桃色のもやにバッテンマークを作る。

「違いますって。

だって、那駄さんあやかしにお願いしてポテチ買ってるんでしょ。

そのお金ももうすぐ尽きそうなんでしょ。

住んでる廃寺も結構古いんでしょ」

「まあ、それはそうだが」

矢継ぎ早に指摘され、頬をかく那駄さん。

「那駄さんがどこかで働いてお金を貯めてみたら、お寺も直せるかもしれない。

ポテチがこの先も買えるかもしれない。

那駄さんには那駄さんにしかできない何か…新しい可能性があるんじゃないですか」

「可能性…?」

「那駄さんの人生を、那駄さんが選んで生きるって可能性です。

誰かに決められるのではなく。

生い立ちで決まるでもない。

…だから」

私は、しっかりと那駄さんの目を見た。

「あなたの黒いもや、一度私に移してみませんか」


◇今のままで

『べ…別にいいじゃない、今のままでも!』

桃色のもやが動揺したように揺れる。

「私もそう思います」

『!?』

「だから、那駄さんに聞きたい。那駄さんはどうしたいか」

那駄さんは腕を組んでううむ、とうなった。

「たしかにこの体では、あやかしの世界で暮らすにはいささか弱い。今はこの廃寺があるからいいものの、将来的にこの寺が壊れた時、俺は野山で生きていける自信はない」

『僕らが守る』

『そうよ!私達がなんとかするわよ』

点くんと夜夜子さんの気持ちもわかる。

わかるんだけど…

『でも、ナダが寒い時にあやかしの俺らじゃぁあっためてやれないよなぁ』

智伊吉さんが静かに言う。

はっとしたように、青と桃色のもやが揺れた。

「…たしかに、雨風防げる家屋で俺の素性が割れないこの場所は、ないと困る。

俺が稼ぎに出て解決するなら、そうしたいところだ」

よっしゃ、言質とれた!

「それでは!」

ぽん、と手を打った。

みんなの視線が私に集まる。

「チキチキ☆染み移し大作戦を始めます!」

「『『『染み移し大作戦????』』』」

みんなの首が、斜め45度に曲がった。



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