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ひきたてなだの大捕物 第五幕

  • 執筆者の写真: みうらさここ
    みうらさここ
  • 2022年4月30日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年9月11日

◇偽り

そして今、ひたすら公道を歩いている。

この黒いもや、小さいけれど人にあまり良い影響がないものだろうから、

誰かと長時間会う訳にはいかない。

「どうしよ…」

喉渇いた。お腹減った。

ばっちゃんの家に帰らなきゃ…でも、このままの状態で会うわけにはいかない。

その時、前に進もうとしていた足が止まった。

腕に何かが絡まったように後ろに引っ張られる。

キキキ…キ…

あの夜の公園で聞いた音が響く。

まずい。

私は逃げなければいけない。

この糸の、持ち主から。

でも、なんで。

なんで、こんなに逃げたくなるんだろう。

「おい。よくも騙しやがったな」

キリキリと見えない糸で腕が締めつけられる。

月明かりの元に姿を表し、長髪を揺らしながらこちらを見ているのは。

那駄さんだった。

「騙したって…私が、何をしたって言うんですか」

先ほどの彼とは雰囲気が違う。

ひどく真剣な目で、こちらを見ている。

「俺は半端ものだから、町に迷い込んだ人でないものをあるべき場所に戻す仕事なんかもやってるんだ。

だから、別に人の世で金を稼げなくても問題ない」

「ひ、ひどい…!騙したんですか!!」

「そっちがな」

まずい。

これ以上聞いたら、このままでいられなくなる。

耳を塞ごうとする腕を、見えない糸が阻む。

「お前がなぜあやかしをもやとしてしか見れないのか」

やめて。

「それは、お前にあやかしのような陰の者を認知できるわけがないからだ」

やめて。

やめて。

やめて。

「なぁ、神さんよ」

懐かしい力が胸の奥から湧いてくる。

ぐぐぐ、と伸びる手足。

白い着物に覆われる凹凸のない体。

月明かりを浴びて、風に煌めく髪。

伸びきったその髪をかきあげ、僕はため息をついた。

『あーあ、バレちゃった…

でも上手だったでしょ?僕の変化術』

那駄は腕組みをして、眉根を寄せた。

「…人に変化して町に繰り出すあやかしは見たことあるが、

人に変化して人の家に混ざり込む神なんて聞いたことがない。

一体何がしたかったんだ、お前」


◇神様の独白

前の住まいはそれなりに栄えた神社だった。

町中にあり、祭りや催しが積極的に行われ、毎月大きな供物が捧げられた。

神々の宴にも毎年出席した。

神の世でもそれなりに名の知れた神だった。

しばらくして人間達の事情で社が取り壊され、僕は山の中の小さな社に移された。

人が、訪れなくなった。

供物が急激に減った。

いつ朽ち果てるか分からない古い社で、いつ終わりが来るかも分からず、起き上がる気力もなく。

ただ横たわり、町を眺める時間が増えた。

そんな状態になっても、今までと変わらず社に通い続ける者がいた。

1人だけ。

「あらあら、お社が古くなってきたわねぇ…

私はお茶とお菓子をお持ちして毎日拝むことくらいしかできないけれど、

またちゃんと、来ますからねぇ」

この者の縁者として人の世に生まれていたら、どんなに幸せだったか。

そんなことを考えていた時、ふざけ半分で朽ちかけた社にフライドチキンを供えた若者がいた。

僕はその供物から力を受け、人に変身した。

何がしたかったか。

それは。

もちろん。

『人に、なりたかった』



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