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ひきたてなだの大捕物 第二幕

  • 執筆者の写真: みうらさここ
    みうらさここ
  • 2022年4月30日
  • 読了時間: 4分

更新日:2023年9月11日

◇引立さんちの那駄くん

「お前、ここまで歩いてきたのか」

青年は驚いたように目を見開いた。

はぁ、はぁ、はぁ…

私は額の汗を拭いながら、来た道を振り返った。

山道。

獣道。

ところどころ壊れてる階段。

「何この道…」

「水とポテチでも出すから中入れ」

「だからなんでポテチ…」

お寺は、驚くくらい綺麗だった。

たしかに木は古そうだけど、埃一つ見当たらない。

本堂もぜんぜんぼろくない。

「廃寺って言うから、もっと汚いところかと思った…」

「一応、掃除は毎朝してるからな」

私は、何か違和感を覚えた。

何か足りない気がする。

「ああ、仏様か?俺がここに来た時はもうなかったらしい」

「ここに来たって…あなたはここに住んでるんじゃないの…?」

その時ガタタン、と派手な音を立てて、引き戸が開いた。

『那駄が、ついに女を連れ込んだ…』

桃色のもやが、ふわふわと青年に近づく。

「別に俺とお前は恋仲ってわけでもないだろ」

『それはそうだけど!』

「ほら、打掛踏んでるぞ」

『あっ』

青年の背中に隠れてこちらを伺う桃色のもや。

「あ、あのぅ、それは…」

「夜夜子だ。見えるのか」

「あいにく、桃色のもやもやにしか見えないです…」

桃色のもやもあやかし。っていうことは。

昨日私が会ったのも、やっぱりあやかしだったんだ…

『ナダぁ、ポテチ出すなら俺にもくれよぉ』

ずずず、という音と共に現れたのは、昨日首根っこを掴まれていた灰色のもや。

「駄目だっつったろ。ほら、木の実集めてやったからこれ食え。智ィ吉」

えーん、と泣きながら木の実を一粒ずつ食べている。

「…食いしん坊なの?」

「量をたくさん食べるわけじゃないんだが、人間の食べ物に憧れがあるんだよ」

『昨日はごめんなぁ…あんまり美味しそうだったから、つい…』

「い、いいよ。美味しいもん!食べたくなるよね、揚げ物って」

『ありがとうぅ優しんだなぁ』

ほわほわと嬉しそうに揺れる灰色のもやに、

なんだか癒される。

「今日は満月じゃないのになんで見えてんだ…?それになんで、色のついたもやなんだ」

「私が聞きたいくらいです…逆になんで、那駄さんはそんなにくっきり見えるんですか」

「それは…」

『那駄…それ、殺した方がいい?』

とたんに押し寄せる、寒気。

冷たい、冷たい小さな青いもや。

「こいつは大丈夫だ、点。刀収めろ」

『…わかった』

チン、という音が響く。

もしかして私、今斬られそうになってた…?

「だ、だ、大丈夫!私、誰も傷つけないよ」

『…』

青いもやから視線を感じる。

観察されているのだ。

青年に害がある存在なのか。

そうじゃないのか。

「な、那駄さんん…!」

「ここまで見られちゃ、話すしかないな」

那駄さんは笑って言った。

からりとした、まっすぐな笑顔だった。


◇那駄の過去

「じいちゃんは40で死んだ」

「どういうこと…?」

那駄さんは座布団の上に、姿勢よく座り直した。

「俺が生まれたのは母さんが16の時だ。母さんは俺が生まれると同時に亡くなった。じいちゃんは俺が生まれて4年で亡くなった」

「…」

「俺は半分人でないものの血を引いている。人にとっては、あまりよくないものも呼び寄せる。

お前が妖をもやとして見ることができるようになったのも、俺とお前の縁が繋がったからだ」

それじゃ、那駄さんはこれからも気軽に人と会えないのかな…

でも。

「私、昨日から見えるんですけど」

「何がだ」

私は、那駄さんの胸をまっすぐに指さす。

「あなたの胸のところに、真っ黒いもやが見えるんですけど」

那駄さんは、片眉をあげた。

「そんなもの、俺は見たことはないが」

「見えますって。夜夜子さん、智伊吉さん、点さん、見えますよね?」

『わたしには見えないわ』

『おいらにも見えないよぉ』

『…見えない』

たしかに、見えていた。

助けてくれた月明かりの下。

天気のいい廃寺の前。

今この少し日が差しているお堂の中でも。

「なんだかすごく、嫌な感じがするんです。その黒いもや」

『でまかせ言うのもいい加減にしてくれない!?』

『…斬る?』

再び感じる冷気にぞっとする。

まだ美味しいものたくさん食べてないし、キラキラの青春送ってないし、ばっちゃんの手伝いもっとしたい。

『でもよぉ、こいつ悪い奴じゃねぇよぉ。おいらのこと分かってくれたし、みんなのことも気持ち悪がらないじゃぁないかぁ』

智伊吉がのほほんと言った。

『だからおいらはぁ、こいつ信じるよぉ』

その言葉に那駄さんがこくりと頷く。

「俺も信じたいところだが…

俺らにも見えないってことは、そのもやは何だ?

そして、それが見えるお前は…

何者だ?」

黒いもやの正体なんてもちろん分からない私は、とりあえず。

ポテチを一口齧った。



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